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その楽しさが読者にも存分に伝わってくるのが大島真寿美さんの新作『渦 妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 魂結(たまむす)び』。江戸時代に実在し、名作「妹背山婦女庭訓」を残した浄瑠璃作者・近松半二の生涯を軽快に描く作品だ。
あの名作の作者が歩んだ人生とは? 華やかな浄瑠璃の創作をめぐる物語。
「もともと歌舞伎が好きで、編集者に歌舞伎の話を書けって言われていたんです。無理だと言ったんですが、ふと『妹背山婦女庭訓』なら書けるなって。これはもともと文楽の演目なので、まず文楽の勉強から始めてみたらこういう話になりました」
江戸時代の道頓堀。幼い頃から父に連れられ芝居小屋に通った穂積成章は、浄瑠璃の虜に。親の勧めで浄瑠璃の作者を目指し名前も「近松半二」と決めるものの、芽が出ない。
「半二自身の資料はあまりなくて。分からない部分を自由に考えるのも楽しかった。たとえば、半二が遅咲きだったのは本当の話。でも、当時道頓堀で活躍した歌舞伎作者の並木正三(しょうざ)と半二が幼馴染みだったというのは私のフィクション。同世代で道頓堀にいて、知り合いじゃないわけがないと思ったんです」
少しずつ成長していく半二の姿に人間味をおぼえる一方、人々の娯楽だった歌舞伎と文楽のライバル関係や道頓堀の様子も興味深く読める。やがて物語は創作をめぐる話として深みを増す。創作者が突き当たる「真っ黒な深淵」や、「渦」といった表現がとても印象深い。
「虚構を作る人はみんな、ちょっとした怖さを味わいながら作っていると感じながら書きました。“渦”というのも自然と出てきたんですが、編集者に重要な言葉だと指摘され、これがタイトルになりました」
終盤には意外な語り手が登場するなど物語はスケールを増していく。書き終えても、なかなか気持ちが切り替えられなかったという大島さん。
「あまりにも切り替わらないから、仕事とは関係なく『妹背山~』の現代語訳を始めました(笑)」
そんななか、嬉しいサプライズが。
「偶然なんですが、5月に国立劇場で『妹背山~』が久々に通し狂言として上演されるんですよ。奇跡のコラボだと思って興奮してます(笑)」
本作を読んで観劇すれば、より深い体験ができるはず!
おおしま・ますみ 1962年生まれ。’92年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞しデビュー。著作に本屋大賞3位の『ピエタ』、直木賞候補にもなった『あなたの本当の人生は』など。
『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』江戸時代の大坂・道頓堀。父に連れられ幼少の頃から浄瑠璃に親しんだ少年が、名作「妹背山婦女庭訓」を生み出すまでの紆余曲折とは。文藝春秋 1850円
※『anan』2019年4月24日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)
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